デュラララチャット「孤独で優しい喧嘩厨」
よく学校の先生が、
「無気力な奴より暴れまわってる不良の方が教育しやすい」
というが、「無反応」というのが一番困るのは確かだ。むかしでいう精神分裂病でも、突然発狂したように暴れまわる患者には薬が効くが、「破瓜型」という全く気力のない患者には薬が効かないという。
不良にしてもパワーの方向が違うだけだから、いい方向に進めばどんどん行く。
しかし、無気力な生徒はどっちにもいけない。そのままスライムのようにとどまってしまう。こんにゃくにパンチしても形は変わらない。
今日でデュラララチャット喧嘩厨の話しは最後になるが、最後はまさに冒頭にあげた「いい見本」のような話しを書こう。
デュラチャにインして、たいてい俺は固定部屋に入るのだが、たまには二人部屋にも入っていくことがある。
ある日「喧嘩上等」といった部屋があって、喧嘩部屋にしては珍しく二人部屋だったので、もしかしたら面白いかなと思って入ってみた。二人きりの喧嘩部屋を開く奴なら多少根性入ってるのだろうと思った。
そして部屋に入るや否や、部屋主が待ってましたといわんばかりに
「ぶっとばすぞ!このやろう!やるのか?」
とすごんできた。しかしまるで迫力がない。
というのは、デュラララチャットはアイコンとハンドルネームだけが手がかりなのだが、その時の主の名前はひらがなで「ぽけもん」。緑の帽子をかぶったアイコン・・・
どう考えても中学生のようにしか感じられなかったのである(実際どんな名前であろうと、アイコンであろうと変わらないと思われるが、時々オーラを感じる者も確かにいる)
俺は一瞬拍子抜けたが、楽しそうなので喧嘩することにした。彼の、
「ぶっとばすぞ!このやろう!やるのか?」
に対して俺は言った。
「あ?俺は天下の切手のないラブレターだぞ?お子様が喧嘩売るのは10年早い!」
するとしばらく返事がこなかった。やはり少年で、それを見透かされたから黙ってしまったのだろうか?まさか本気でびびったのだろうか?
しばらく待っても返事がないので退室しようとしたその時、彼は言葉を発した。以下は我々二人との会話である。
「上等だよぶっ飛ばしてやんよ」
「ネットでどうやってぶっ飛ばすんだよwやられないと思ってイキがるのがお前ら喧嘩厨の特徴だぜw」
「ふざけるないつでもやってやるよ」
「なら実際会うか?w喧嘩の仕方教えてやるよ」
「喧嘩くらい余裕で出来る」
「どうせ田舎者だろお前はw同じ県の奴なんかいないと思ってるんだろw」
「ちげえよ。ボコボコにしてやるよ」
「いいねー坊やwで、どこにすんでるんだ?」
「熊本」
俺は息を飲んだ。昨年例の熊本大地震が起きてからまだ間もない頃だった。
俺は言った。
「熊本ってお前・・・喧嘩してる場合じゃないだろう。大丈夫なのか」
「被災地から遠いから家は平気だけど。まあおばあちゃん達が大変らしい」
「そうか・・・」
・・・・・・以前アメリカからデュラララチヤットをやっていた女がいて、なんかの事で口論になったのだが、その女は、
「お前のような東京の田舎者は云々・・・こっちはLAだから」
と言っていたのを思い出す。同じ日本人でありながら外国をバックに馬鹿にしてくるとはなんともいえない気分だった。
普段俺たちが日本にいて、日本同士馬鹿にしあうのとは全然違う。都道府県の喧嘩くらい面白いものはないと思っている。特にどこでもそうなのだろうが、隣の県とはたいてい仲が悪い。
むかしの埼玉Vs千葉のどっちがダサイかとか圧巻だったし、これは別のサイトであるのだが、鳥取男Vs島根男の喧嘩はもうプロの漫才並みに面白かった。あの時は鳥取の人間が勝って、島根が退室していったのだが、去ったあとに鳥取が一言、
「実は俺、鳥取も大嫌いなんだよなー島根と大してかわんねーよ」
いやいや、あの喧嘩だけは笑わせてもらった。馬鹿にするというよりはチャカしあい、と言った方がいいのか。しかしどこか「同じ日本人」というのが前提にあって、名所名物を出しあって競うざまは大変微笑ましいではないか。
それに比べて外国の街を盾に取って、自国をバカにする有様は滑稽だったし、
「国辱もの」以外の何ものでもないと感じた。
微笑ましい喧嘩の時はともかく、同じ日本で災害にあった場合、
「同じ日本人として痛みを感じあう」
というのが当たり前なんだと思う。
俺は川崎市の人間(今は横浜市)だが、川崎と横浜というのも仲が悪いし、自身横浜は大嫌いなのだが、いざ神奈川を、よその都道府県にバカにされたら、横浜を背負って喧嘩をしている。地元同士はいいのだ。よそ者に言われたくない、という心理というのは各々持っているものだと思う。
いわんや、よその国からバカにされたら、たとえどの都道府県であっても腹がたつのが普通であろう。
阪神大震災が西の地震だからといって、東の人間はなんとも思ってなかったかといえば全然違うし、東日本大震災も然り。共同意識のない者には、よその都道府県の土地をバカにする資格はない。
「そうか・・・おばあちゃんが大変だというのなら何か出来ることがあればしないとなんじゃないの?」
「でも今は身動きが取れなくてどうにもならない」
「ならせめて、こんなときに喧嘩なんかすんなよ。最も俺も悪いんだけどさ」
「うん」
「でも君の家族は無事で、おばあちゃんも生きてるんだ?」
「うん みんな生きてる」
「それはよかったよ。よし喧嘩は今日はこれで終わりだ」
「でも退屈なんだよなーこんな時なのにやることないんだもん。親は勉強やれって言うけど。こんな時に勉強したくねえよ」
「俺も東日本大震災のときは暇で仕方なかったよ。やる事は山ほどありそうなのに一般人では出来ないことばかりだ」
「そうだね」
「せめて他の人の無事を祈って朝日を待つだけだな」
「だね」
「じゃあ、おやすみ!・・・次会った時はたっぷりいじめてやるからよw」
「wwwやれるものならやってみろよwww」
共感。
これ一つで人の心は一つになれる。誰も孤独になんかなりたくないのだ。
少年は、
「今日はありがとう。おやすみー」
といって退室していった。
イノセント(無邪気)な笑顔で手を振って去っていかれたような感覚・・・
また俺はデュラララチャットで心が清くなったような気がした。