切手のないラブレター コラム

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明治節

小学生の頃アパートのとなりの四畳半一間におばあちゃんが住んでいた

俺のおばあちゃんではない いわゆる他人だ

 

おばあちゃんといっても決して「おばぁちゃん」なんて言えるような雰囲気ではない

一言でいって迫力みたいなのがあった

そのおばあちゃんの子供達がよく遊びにくるのだが、その都度うちで面倒みるから来なよといっても決してその四畳半から離れることなはかった

 

「ここがお前たちの帰ってくる場所だ」

 

いつもそういってた

元芸者をやっていたそのおばあちゃんは、だらしないのが大嫌いな風だった

80をとうに超えているのに毎晩ウイスキーを飲み箸はしっかり箸たてにおいていた

つまみは目の前の畑にある蕗の薹を食べていた 

家に帰る前にいつもおばあちゃんの部屋の前を通るのだが、窓から酒を飲んでいる姿が丸見えなのだ

そしていつもアイサツすると頭を下げてくれた

老人の一人酒なのに全く悲壮感がない、とうちの母親も言っていた

 

洗濯機は使わずに洗濯板で洗ってる姿も、風呂桶を風呂敷に包み銭湯に行く姿も記憶に新しい 全く孤独感がなかった

 

今の老人は四畳半風呂なしどころか、真っ白なワンルームマンションに住んでいても何か寂しい

洗濯機があっても おいしい刺身があっても可愛そうという感じがしてしまう

貧しさにたいしての覚悟というのか、生きることの孤独さから逃げていると人間は背中に寂しさが出てしまうのだろうか

 

数年後別の地域に引っ越した あの四畳半のおばあちゃんは死んだと噂できいた しかしやはりまったく悲壮感はなかった

一言でいって貧乏でも品があってそうしてそのプライドが怖かった

 

 

あのおばあちゃんは明治生まれ 

よく明治女というが明治の人は本当に迫力があった ある作家「貧」があるから「品」があるといっていたがむかしの日本人はそうだったんだろう

今では平成生まれに昭和生まれとバカにされるが、昭和に生まれて、そして大正明治の人を見れてよかったと思う

 

「お前たちの世話になんかならないよ バカヤローここがお前たちの帰ってくる場所じゃないか」

 

子供の世話にならず四畳半で悠々ウイスキーを飲んでいたあの気丈さがたくましかった。

ちなみにそのおばあちゃんは江戸っ子の芸者という女丈夫

老後は金だけじゃやはりダメだなと思う